6月3日(月)配信 横浜動物救急診療センター 院長 杉浦洋明
2006年東京農工大学卒。獣医師。浜松市の動物病院で6年間勤務した後、横浜市内の夜間救急病院で10年勤務(7年間は現場責任者を務める)。2022年6月に横浜動物救急診療センターを開院し院長に就任。経営者としては合同会社VECCS横浜の代表を兼任。学術講演、学術書執筆、学会発表多数。英語学術論文1本。
笠井:横浜動物救急診療センターはどんな病院ですか?
杉浦:当院が特徴的なのは、救急という分野のみを扱うというところです。人間の救急病院はたくさんあると思うんですが、動物の救急病院というのは大変限られています。特に当院の特徴として、24時間救急をずっとやっていますが、実は動物病院ではなかなかない存在なんですよね。
笠井:杉浦さんはなぜ普通の動物病院ではなく、緊急の動物病院を?
杉浦:まず、僕は救急という分野が自分の天職だと思っています。獣医療の本質的な部分だと思うんですよ。まず苦しい、痛い、助けて、そこから獣医療って始まるんだと思うので、その分野を中心に据えてやっていきたいと思ったというところです。
笠井:やはりそれは、横浜の夜間救急病院で10年間勤めた経験から、24時間やっている救急病院の必要性を感じたわけですか?
杉浦:その通りですね。例えば夜に来た患者さんが酸素室から出られない状態だとか、夜に緊急手術をしたとか、そういった子たちをお昼もそのまま入院のケアができるという点で、24時間病院側が体制を整える必要があります。
笠井:院内設備も本当に素晴らしいですよね。心肺蘇生、重症管理、内視鏡、CTなどなど、人間の病院みたいな写真が並んでるわけですけれども、これだけの設備投資には莫大なお金がかかると思います。ビジネスとして成り立つのか気になりますが、どういう形で開業まで持っていけたんですか?
杉浦:機材も重要ですけれども、本当に重要なのは、人をどう確保するかなんですよね。24時間やるなら人件費も膨大になってくる。そういうことを考えた時に、いい診療をして満足をしていただき、しっかりお金をいただいて、人件費、設備投資に回すという大きな動きを作っていかないと立ち行かない、大きな規模で始めなければ人もお金も回らないということが推測できていたので、そういうやり方をとっています。
笠井:実際に開業されて、患者さんの数は想定通りでした?
杉浦:実は想定以上ですね。これほど頼られるものか、本当にこんなに需要があるのかというような印象を受けています。当院は「基本断らない」を理念としてやっているので、いかに受け入れ体制を整えるかは大変重要です。
笠井: 24時間体制を支える人件費の問題は相当重くのしかかってきません?
杉浦:人件費に関しては、当院が使うお金のかなりの割合を占めているのが本当のところです。
笠井:そこに何か工夫ってあるんですか?
杉浦:実際には、逆に出すものはしっかり出すというスタンスの方が結果的にいいと僕は信じていますので。もちろんいくらでも出せるということではないんですけれども、あまりケチケチしないように、ボーナスもしっかり出す、というような気持ちでやっています。
笠井:さて、その杉浦医院長の仕事の向き合い方について。第一のキーワードはモチベーション。仕事のモチベーションはどこにあるんでしょうか?
杉浦:やっぱり本当に厳しい状況だった子が元気になって帰ってくれる、そういう姿を見れば、「ああ、やっぱいいねこの仕事は」と思います。
笠井:救急医療の動物病院であれば、普通の動物病院以上に死と向き合うことも多いと思うんです。そうなってくると、飼い主さんだけではなく、スタッフの方も心が傷ついていくということも十分考えられるんですが、そのあたりはどうですか?
杉浦:実際に、例えば若い方を採用する際には、当院では遺体の数が多いということは先に伝えています。あまり仕事に没頭しすぎないように、元々のシフト上もしっかり休みが取れるようにしていますし、休みの希望があれば基本的に休んでもらってる。どうしても気が滅入ることはありますので、心のケアというところは重要なのかなと思います。
笠井:第二のキーワードは信念。杉浦さんの仕事の信念とは?
杉浦:そうですね、自分自身が模範となれるように、率先して患者さんに立ち向かうと言いますか、向かっていくっていう、そういう姿勢を見せる必要があるというか。本当に院長、診察できんのかなんて思われないように。院長ちゃんとやってんだ、じゃあ自分たちもちゃんとやろうと、そういう風に見てもらえるように頑張っているつもりです。
笠井:これまでの他のインタビューで、「何も救命医療だからスーパーマンになろうとするんじゃないんだ」と仰っているのを見たんですけども。
杉浦:あくまで、ただただ地道にまっすぐと仕事に当たっていくという、そういった姿勢が大事なのかなと思ってます。一つすごいことができるよりは、オールマイティに一つ一つが確実にできるっていうこと、その方が重要かなと思います。
笠井:そして最後、第三のキーワードは未来へのビジョン。今後やりたいことや挑戦、どんなものがあるでしょうか?
杉浦:今は輸血の環境作りに力を入れ始めてるところです。
笠井:そうか、ペットも事故で出血多量になれば輸血が必要ですけども、現在はどうしてるんですか?
杉浦:人のように赤十字のシステムがあるわけではないので、その時どこかのワンちゃんから血液をいただくという形で。
笠井:システマティックになってるんですか?
杉浦:残念ながら、聞いたことないです。献血のセンターや団体があるとかではないんですよ。あくまで現状では、各病院さんのそれぞれの努力によって、献血ドナーとなる血液をくれるワンちゃんの確保をしているっていうのが実際のところです。
笠井:病院自体をもっと大きくしたり、他のところにも作ったりとか、そういうのはもう大変すぎますかね?
杉浦:私自身が分院を作っていくことは大変だなと思ってます。ただ、今後いろんな地域で、似たようなスタイルで病院をやっていきたいという話が持ち上がれば、できる限り協力をしたいと思いますし、現にそういったお話もちょっといただいてたりはします。
笠井:こういう病院が増えていくといいなと思います。そしてビジネスとしても、しっかりと見据えてやれば成り立つってことが、お話を聞いてわかりましたから。
杉浦:よかったです。