7月1日配信回
2024.07.01

7月1日(月)配信 株式会社翠雲堂 代表取締役 山口豊

略歴

1949年生まれ、東京都出身。早稲田大学商学部卒。二代目社長の父が仏壇仏具、荘厳仏具に寺院建築を取り入れる。大学卒業後、繊維の卸会社を経て同社へ。2012年、翠雲堂五代目社長に就任。日本の伝統文化や職人の技を後世に正しく伝えるため、本物の荘厳仏具づくり、社寺建築にこだわることで唯一無二のスタイルを築く。

笠井:翠雲堂、お仕事の内容を教えてください。

山口:一言で言いますと、お寺の全てを作る会社です。本堂や鐘楼堂、山門、その他、ご本尊の製作や荘厳仏具など、全てのものをトータルで作る会社でございます。

笠井:いわゆる昔ながらのお寺を作るところからでしょうか?

山口:宮大工もおりますので、一般の寺院の本堂から建築も行います。他社とどこが違うかと言いますと、普通の建築屋さんですと、中の仏具だとかご本尊だとか、そういったもののトータルの大きさがわからないことがあります。まして、ご本尊の修理もできません。その点全てのことを一社でできるのは、日本では我が社だけです。

笠井:どんなお仕事をこれまで手にかけていらっしゃいますか?

山口:日蓮宗の総本山、身延山の五重塔の一階の仏具を、仏像なども含めて私どもでトータルで対応させていただきました。

笠井:普通の家の建築とかと大きく違う点はなんでしょうか?

山口:まず材料の柱から大きさが違いますし、道具も全て大きさが違ってきますので、一般住宅を作る大工と宮大工は全然業種が違います。

笠井:翠雲堂はどれくらいの歴史になるんですか?

山口:創業は昭和7年、1932年ですね。本年でちょうど開創して92年目。私が社長としては5代目になります。1962年に松戸に新しい工場を作りまして。なぜ1962年と言いますと、1964年に東京オリンピックがあり、そのために全国から優秀な大工が東京に集められて、色々な模型を作ったんですね。いい大工が揃ってるので、その大工さんたちをまとめて、何人かをグループにして私どもの工場を立ち上げたというのがスタートです。

笠井:つまり、東京にいい大工さんが集まってくるのを見据えてスカウトしに行ったと。

山口:それがスタートです。うちの父の代の時ですが、有名な早稲田大学の田辺先生という社寺建築のトップの方いらっしゃって、その先生から「いい大工が集まるから工場を作れ」という指導があったのです。

笠井:お寺を作っている会社はオリンピックとか関係ないのかなと一瞬思うんですが、世の中の動きといったものにも目を光らせないとダメなんですね。

山口:その当時の本当に素晴らしい大工が約10名ほど揃っておりましたので。その教えをずっと今も継承してやっています。

笠井:優秀な宮大工さんは高齢化ですとか、そういった課題があるのかなとも思うのですが。

山口:大工だけに限らず、一般の職人も高齢化している中で、今私どもが一番大事にしていることは、次の世代に今の技を伝承していくことです。今の職人の仕事を100年先までつなげていくことが大事な仕事だと思っております。私がもし300年後に行けるなら、自分たちが作った建築と物は間違いなかったと自分の目で見てみたいと思っております。

笠井:普通の家の設計と違って、100年単位で繋がっていく建物にしないといけないわけですね。

山口:おっしゃる通りで、2020年の12月に、ユネスコの無形文化財に日本の大工、その他の職人の技が選ばれたのですが、やはり世界のユネスコが認めてくれたっていうことは大変素晴らしいことだと思っております。

笠井:修行をしている若い方はどれくらいいらっしゃるんですか?

山口:大工は今の若手としては、内部はまだ10名そこそこ。外部にもおります。他にも漆を塗る職人、飾りや物を作る職人、金箔を貼る職人だとか、いろんな職人がいます。各分野でオンリーワンになって、その人間の個性が生きる。職人たちが集まって初めて仕事がナンバーワンになる。

笠井:これからの未来に向けての山口さんのビジョン、どんなものがありますか?

山口:このまま事業を続けるには、いろんな意味で技を継承する、お寺さんといい作品を作っていくことに対して、やはり資金的な問題も大事だと思います。Web3の時代で、DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織のこと。特定の所有者や管理者が存在せずとも、事業やプロジェクトが推進できる状態の組織を指す)という自立分散型の組織で、ブロックチェーンを介しての世の中に移行するだろうということを見据えて、2年前に「寺DAO」というサイトを作りました。

笠井:暗号資産のようなもので資金を集めていって、寺院の修復とか伝統技能のサポートをするコミュニティをデジタル的に作っていこうとされていると。

山口:トークンを使ってサイトを見ることで課金されるとか、そういった、従来のやり方とは変わった方法でこれからDAOをもっと進化させていこうと考えています。

笠井:驚きました。ここにDAOとトークンの話が出てくるとは思いもしませんでした。これまでの伝統を守っていきますっていう話だと思ったら、それだけではなく、新しいデジタル技術も取り入れていくと。

山口:やはり世の中の動きにはついていかないといけないので。それと同時に、従来の技はそのまま残しつつ、日本のいいものをもっともっと世界に知っていただこうと。今年の1月にドバイで展示会がありまして、私どもの作品を持って展示会に参加しました。日本の優秀な技と仕事を、海外の人にも見てほしいということで、非常に反響は大きかったです。

笠井:これからは海外の寺院の建築の発注も視野に入れてらっしゃるということですか?

山口:寺院よりも、漆塗りや金箔などの日本の作品を、海外の人に見せて、商品として、作品として収めるということです。やはり将来的に長く見るには世界を見なきゃいけないと思っています。

笠井:それってお父様と一緒ですね。伝統であっても新しいものを掴んでいくという。

山口:やはり新しいものを常に入れていかないことには、企業は生き残れないなと。