2月3日(月)配信 エフプラン 代表 古野善昭

1969年北海道・栗山町生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。27歳から大工として建築業界でキャリアを積む。2007年に1級建築士を取得後「1級建築士事務所 エフプラン」を設立。
笠井:建築のお仕事をされているということなんですね。設計など、業務の範囲はどこまでですか?
古野:大工上がりで建築士の資格を取ったので、設計して、施工して、家具まで作るという、すべて一人でやるスタイルです。
笠井:大工さんから1級建築士のコースというのは、よくあるパターンなんですか?
古野:なかなかないと思います。実務経験だけで受験資格をもらわないといけないので、7〜8年はどうしてもかかる感じですね。
笠井:経歴を拝見すると、北海道の栗山町生まれで、今も栗山町で会社をされていらっしゃいますね。ただ、日本大学芸術学部文芸学科卒業とのことで、普通は文芸学科だと出版社や新聞社、小説家などの進路が一般的なんですが、大工さんですよね?どういうわけなんですか?
古野:自分ができる仕事が全然なくて、藁にもすがる、その藁がたまたま大工でした。
笠井:ということは、初めは文字の仕事をしたかったのですか?
古野:小説家みたいな仕事をしたかったです。
笠井:お聴きの方はわからないかもしれませんが、小説家と言われた方がしっくりくる風貌です。それでは大工さんになったのはどうしてですか?
古野:たまたま知り合いのつてで入った感じです。
笠井:その世界に入ってみてどうでしたか?
古野:それはそれで楽しいと感じることの方が多かったと思います。

笠井:楽しければ大工として一流になっていくと思いますが、建築士の道を選ばれたのはどうしてですか?
古野:大工ということは、設計者がイメージしたものを作りますよね。それがどうしてもちょっと我慢できなくて。
笠井:どういうことでしょうか?
古野:完成した建築物が、自分がかっこいいと思う仕上がりとは違うことが多くて…。それを大工仲間に話していたら「そんなに言うんだったら、あなたが建築士になればいいじゃないか」と言われまして、その言葉に乗せられて始めたんです。
笠井:パワーがありましたね。仕事を変えるときに、ご家族から賛成や反対など、何か言われましたか?
古野:仕事を変えるといっても、大工をしながら建築士の勉強ができるので、転職という感じでは全然ありませんでした。今も大工の仕事をしながら建築士の仕事もやれています。
笠井:建築士をやるなかでターニングポイントはありましたか?
古野:もともと環境に優しい家を建てていましたが、建築士になってからは脱炭素社会を意識するようになりました。そこで、100%自給自足、自分の家が生んだエネルギーですべての暮らしをまかなうということを目指したんです。
笠井:それほどまでに地球環境に興味を持つのは、何か理由があったんですか?
古野:大きなきっかけがあったわけではありませんが、かなり前から「スローライフ」「ロハス」という言葉に共鳴している部分はありました。
笠井:北海道で暮らしていると、気候変動を感じることは多いですか?
古野:やっぱり暑くなっています。
笠井:昭和のころは、北海道はクーラーがいらないというのが定説でしたが、今は違うんですね。
古野:今はないと厳しいですね。最近はお客様とも「少なくともリビングか寝室にはクーラーを設置しましょう」という話になります。
笠井:温暖化を肌で感じていらっしゃるんですね。そこに至るまでに、何か大きな体験などはありましたか?
古野:東日本大震災が起きて原発や電力について考えるようになりました。あとは北海道胆振東部地震のときに、北海道がブラックアウトになったんですよね。3日くらい電気が使えない生活を経験して、災害時のバックアップとしても、自分でエネルギーを生み続けられる家の必要性を強く感じました。

笠井:家を作るうえで力を入れているのはどんなところですか?
古野:気候変動に対応できる家を作りたいと思っています。具体的には、住宅の敷地に太陽光とV2Hという設備を付けて、晴れた日はEVと置き型の蓄電池に充電して、夜や曇りの日は家に戻す、といったシステムを構築しています。また、地中熱ヒートポンプを採用して、昼間にためたエネルギーを夜に使えるようにしています。
笠井:事務所のホームページを拝見したのですが、冒頭に「本当のエコ」と書いてありました。これはどういったお考えですか?
古野:今年の4月から省エネの基準が設けられ、建築確認申請時に断熱材などの性能がチェックされることになりました。
笠井:つまり、新しい建物には省エネの基準ができて、それをクリアしないと新しい建物を建てられないということですね。時代がついてきましたね。
古野:私たちの目から見ると基準が緩い部分もあります。なので、それをさらに超えていくことが本当のエコだと考えています。
笠井:エフプランからすると、基準が緩いんですか?
古野:北海道が特殊なエリアということもあって、道内ではすでにその基準を超えた家が9割以上だと思います。北海道での技術やノウハウはかなり蓄積されているはずなので、どんどん全国に広めていきたいです。
笠井:新しい住宅にエコな基準ができていくということなんですね。さて、これからのビジョンはどのようにお考えですか?
古野:この気候変動を止めるためには、豊かさの再定義をしなきゃいけないと思っています。建築など私が今までやってきたことを活かして、何か世の中に提案していければと考えています。
