4月14日(月)配信 はしたにクリニック 院長 端谷毅

名古屋市立大学医学部卒業。大原幸吉氏のもとで第二生理学教室の助手として汗の研究に従事。その後、約10年間、西野仁男氏を師事し、ヘミパーキンソン病ラットの脳神経移植や分子生物学的研究など、大脳生理学の研究に取り組む。以降は愛知県職員として豊明保健所、西尾保健所、環境衛生課勤務を経て、日本赤十字豊田看護大学の教授に就任し、形態機能学(身体の仕組みと役割を教える講座)を担当。2006年、発達障害児の治療を主とした、はしたにクリニックを開業。
笠井:愛知県みよし市のクリニックで、主にどんな病気を診てらっしゃいますか?
端谷:精神科で子どもの発達障害を中心に診ています。大人の発達障害の方もいらっしゃいますね。一般的な精神科ですから、うつ病やパニック障害の治療もしています。
笠井:いわゆる心の病気を診ているということですね。経歴を拝見しますと、名古屋市立大学医学部を卒業され、脳の研究に10年間取り組んでおられます。その後、愛知県の職員として保健所に勤め、日本赤十字豊田看護大学の教授になられたのですね。
そして、はしたにクリニックを2006年に開業されました。ご自分で開業されたのは何か理由があるのですか?
端谷:すでに発達障害についてはかなり勉強していました。ただ、当時は発達障害の一般的な理解は進んでおらず、子ども本人も親も先生も詳しくありませんでした。だからこそ、発達障害の子どもの通訳のような存在になりたいと思い、開業しました。
笠井:脳の研究を10年間されていたそうですが、今の精神科のお仕事につながっているのでしょうか?
端谷:精神科の先生は一般的に、うつ病や精神障害などを心の病気として捉えますが、私は脳の病気と捉えて患者さんを診るようにしているので、ほかの精神科の先生とは治療スタイルが違うかもしれません。
笠井:そうなのですね。脳の病気と捉える場合、どのようにアプローチするのですか?
端谷:精神疾患の背景には、自律神経の不調が関係していると考えています。自律神経には交感神経と副交感神経があり、交感神経は車のアクセルのように身体を活動モードにして、副交感神経は身体を休息モードにします。
健康な人はアクセルをふわっと踏みますが、うつ病などの人はアクセルを踏みすぎるのです。そうすると心臓が早くなってはいけないので同時にブレーキも踏まなければいけません。その両方をフル回転するために疲れてしまい、どうしても身体に負担がかかります。
こうした自律神経の乱れの改善のカギとなるのが、呼吸だと考えています。
笠井:呼吸に注目した治療を提供されているそうですね。これはまたのちほど詳しく伺いますが、3人の子どもの親として気になることがあります。1人の子どもが、ほかの子と違うと感じたことがあり、発達障害ではないかと言われたこともありました。
先生はどうお考えですか?診断されるものなのでしょうか?
端谷:はい、チェックリストを使って診断基準をお伝えしますが、実は私自身も発達障害です。発達障害は、得意なことと苦手なことに差があるだけだと考えています。苦手なことが生活に支障をきたさなければ、生活には困りません。困れば障害、困らなければただの個性です。

笠井:具体的に、発達障害にはどんな症状があるのですか?
端谷:一番困るのは注意欠陥多動症(ADHD)ですね。落ち着きがない、忘れ物が多いなど、社会生活で困難が生じやすいです。
得意なことは活かし、苦手なことは人に頼るのが私の基本的な対応です。
笠井:そう聞くと、少しほっとします。先生が仕事をされていて、うれしい瞬間はどんなときですか?
端谷:不登校の子に呼吸法を教えて、次の診察で、呼吸して学校に行けるようになったと聞いたときなどは、良かったなと思いますね。
笠井:不登校のお子さんは、精神科の通院によって登校できるようになるのですか?
端谷:当クリニックの場合はそう思っています。呼吸法を取り入れ、悩みすぎの状態から抜け出すと「まあいっか」と思えるようになり、学校に行けるようになることが多いです。患者さんの年齢層は小学生から大人、引きこもりの方まで幅広いです。
笠井:親御さんが、お子さんのことで疲弊してしまうこともありませんか?
端谷:もちろんあります。皆さん「いい子に育てたい」「苦手なことを直してあげたい」と思うのですが、苦手なことはなかなか直りません。得意なことを伸ばし、苦手なことは人に頼る知恵を身につけるようにお伝えしています。
笠井:親御さんはハッとされるでしょうね。発達障害の人が幸せな人生を送るために、どんな点に気をつければいいでしょうか?
端谷:社会に出る22歳以降の人生を見据え、何をしたいかを決めて進むことが大切だと伝えています。
笠井:なるほど。それは脳の病気ということと関係があるのでしょうか?
端谷:悩みすぎがすべての病気の原因だと考えています。不満や睡眠不足も大きな要因です。脳は睡眠中、休息して老廃物を洗い流すような働きがあるため、質のいい睡眠が非常に重要です。
笠井:そのために、呼吸法が有効な手段となるわけですね。先生の呼吸法には名前があるのですか?
端谷:「KTメソッド」と呼んでいます。
笠井:呼吸法で精神障害にアプローチするというのは、どういうことなのでしょうか?
端谷:心拍変動を測る機械を使い、10秒呼吸(5秒吸って5秒吐く)をしてもらったところ、症状や体調によって波形が明らかに異なりました。6割の患者さんはきれいなサインカーブになりますが、自律神経が乱れている人は波形が乱れます。10分程度呼吸を続けると、ほとんどの人の波形がきれいになるのです。
笠井:10秒呼吸法を毎日続けることが大切なのですね?
端谷:患者さんには朝10分程度行うようすすめています。気分が良くなるなど、体調の変化が波形に現れる傾向にあります。心の状態も影響すると考えています。
笠井:ADHDなどの症状も呼吸法が役立つのですね。
端谷:マインドフルネスの研究でも同様の効果が報告されています。マインドフルネスで大切にされている瞑想は呼吸を意識するだけですから、ゆっくりとした呼吸は効果が期待できるはずです。
笠井:うつ病や統合失調症などの精神疾患にも、呼吸法は効果があるのでしょうか?
端谷:マインドフルネスのデータでは効果が示唆されています。
笠井:はしたにクリニックに通うことで、薬の量を減らせる可能性もありますか?
端谷:もちろんありますが、睡眠薬は使うことが多いです。質のいい睡眠は重要ですから。ほかの薬はほとんど使いません。

笠井:薬漬けで悩んでいる方にはいいかもしれませんね。引きこもりの治療はどのようにされるのですか?
端谷:呼吸法だけです。引きこもりは考えすぎが原因で、嫌なことを想像でどんどん強化してしまう状態だと考えています。毎日呼吸法を実践してもらうことで、ポジティブな状態になり、外出や就労につながるケースもあります。
笠井:お子さんが引きこもると、ご家族の負担も大きいですよね。呼吸法で外に出られるようになるのは、親御さんにとって大きな喜びでしょうね。
今後、どのような目標やビジョンをお持ちですか?
端谷:呼吸法の研究が進んでほしいですね。さまざまな病気の方にも楽になってもらえる可能性があるのに、薬の研究ばかりが進んでいる現状が変わればいいなと思っています。
笠井:まだ広がりを見せていないということでしょうか?
端谷:そうですね。一人でやっているので限界もありますが、今後、共同研究も予定しています。
笠井:先生は、発達障害を障害と捉えていないようですね。
端谷:私自身がそうですから。私はアスペルガーとADHDの両方を持っています。得意なことは子どものころは算数だけでした。困れば障害、困らなければ個性。得意なことを伸ばし、苦手なことは人に頼る。これが、発達障害を障害と捉えない、基本の考え方だと思います。
笠井:今のお話は、自身の子どもが発達障害かもしれないと悩む親御さんにとって、非常に心強いと思います。最後に、心の病が広がっている現代において、その根本的な原因は何だと思われますか?
端谷:悩みすぎです。とにかく悩まないこと、気分を晴らすこと、そしてよく寝ることが大切です。
笠井:細かいことにこだわりすぎない方がいいというわけですね。大変勉強になりました。これからも迷えるお子さんを救ってあげてください。ありがとうございました。
端谷:ありがとうございました。
