2月10日配信回
2025.02.10

2月10日(月)配信 越後天然ガス株式会社 代表取締役社長 小出薫

略歴

1974年生まれ、新潟県出身。98年京葉ガス入社。経理・企画・営業を経て、2008年に越後天然ガス入社。供給部・専務取締役などを経て、12年に代表取締役社長に就任。越後プロパン代表取締役社長、新津法人会会長も務める。

笠井:主な業務はどういったところになりますか?

小出:新潟市秋葉区・江南区、そして五泉市に、都市ガスを3万4,000件ほど供給しています。

笠井:経歴を拝見しますと、ご実家が越後天然ガスということになりますね。大学卒業後、千葉のガス会社に入社されていますが、やはりこれは社長になるための修行ですか?

小出:違うんですよ。実は新潟が大嫌いで、東京の大学に逃げたんです。そのままこっち側の会社に就職すれば逃げ切れるかなと思ったんですね。

笠井:なぜ普通の会社に行かなかったのですか?

小出:普通の会社に行くと、親や親戚に怒られると思ったので、修行と見せかけました。

笠井:すごい、ドラマみたいですね。

小出:これで逃げ切れると思ったんですけど、千葉のガス会社に入社して5年後に、先代の社長がやって来て「そろそろ帰って来ないか」と言われました。でもいろいろ言い訳して断って、そしたら7年後にまた言われたのですが、それも逃げて。さらに10年後にまた言われて、さすがに言い訳がなくなって、帰ることにしました。

笠井:説得を受けて、ようやく帰ることになったんですね。社長を継ぐ気になったのですね。

小出:覚悟を決めて、大嫌いな新潟に帰るといった感じだったのですが、帰ったら帰ったで、離れていたぶん新潟の良さに気付きまして。今も社長を続けています。

笠井:ご実家の“えちてん”に入社してみて、何を感じましたか?

小出:びっくりしましたね。当時はまだガス販売の地域独占が認められていたので、都市ガス会社は守られていました。いわゆる競合他社がおらず、一生安泰という空気が社内にあり、社員に真剣さを感じられなくて。初日から驚きました。

笠井:発想を変えれば、安定した会社という感じもしますが、むしろそれは危機感となった?

小出:ものすごく危機感でしたね。まず社員に全然やる気がありませんでした。あとは、表面上は仲良くしているんですが、裏では陰口を言っていたり…。これはちょっとまずいなと。

笠井:実家に帰ってみたら、家業が停滞しているというのもドラマのようですよね。やっぱり変えていかなきゃいけないという気持ちになったんですか?

小出:会社を変えるというよりは、こんな生き方をしていて、社員たちは生きがいがあるのだろうかと思いました。なんとか救いたい、もっと生きがいを持ってもらいたいと考えました。

笠井:それで社長に就任して、どんなことから始めましたか?

小出:社員の意識を変えようとしました。ですが3年くらいはまったく変わらなかったです。

笠井:急には無理なんですね。

小出:非常にストレスを感じていたのですが、あるときふと「本当に変わってないのか?」と思い、3年前と比べてみたら少しずつ前進していることがわかり、そこからは何も言わなくなったんです。言わなくても大丈夫だから、自分の好きなことをしようと思い、どんどん外に出るようになったんですよ。いろいろな人に会って話をして、お互い協力しましょう、というような感じで。なかにはテレビに出るような有名人にも会っていたら、関係のある人たちが来社するようになり、そしたら社員の目が一気に変わって「この社長についていってもいいんじゃないか」といった空気になっていきました。

笠井:外部からの刺激によって、社員にモチベーションがもたらされたのですね。

小出:今までは、社長はずっと社長室にこもっているイメージだったようですが、積極的に外に出る私の姿を見て、私への見る目が変わったようです。どんどん私の話も聞くようになりました。言葉よりも行動で示すべきだなと感じましたね。

笠井:そうやって仕事が楽しくなってくると、人って変わりますか?

小出:変わりますね。

笠井:どんな感じで変わってくるんですか?

小出:まずは私に対しての態度が変わってくる。あとは目の輝きが違いますね。例えば新入社員の面接で、私が会社や社員の目指す方向性を話して共感してくれると、目がキラキラし出すんですよ。

笠井:でも真面目な従業員さんも多いんじゃないですか?地域独占で守られていると。

小出:多いですね。真面目すぎて悩む人も多かったです。人間はバランスが大事だと思っているので、真面目すぎる人はもっといい加減にやっていいし、今までいい加減にやって来た人はもう少し真面目にやればいい。そのあたりを重視して社員に呼びかけました。

笠井:今、越後天然ガスで力を入れている事業は何ですか?

小出:7〜8年前に都市ガスが自由化されて、ほぼ同時期に電力事業も始めました。なぜかというと、世界中でカーボンニュートラルが掲げられるようになり、いろいろなエネルギーをベストミックスさせる必要があると思ったからです。その電力事業がだいぶ軌道に乗ってきました。プラスアルファで環境問題やカーボンニュートラルなどの取り組みを、いろいろな人と力を合わせて促進したいと考えています。

笠井:そうしたなかで、地域でのイベントをずいぶんやってらっしゃいますね。

小出:これまでは地域独占で守られてきたので、広報や地域活動をやらなくても会社が成り立っていましたが、自由化に備える必要がありました。あとはやはり地域が廃れるとお客さんが減りますし、会社も成り立ちません。成り立たないと社員の給料も上げられないですし。だから地域を活性化しようと考えました。それを社員がしっかり受け継いでくれて、いろいろなイベントをやっている感じですね。

笠井:後半はですね、皆さんに仕事へのこだわりや未来へのビジョンを3つのキーワードでお聞きしております。まず第一のキーワード「モチベーション」。小出さんの仕事のモチベーション、その源は何でしょうか?

小出:やっぱり人は、一人じゃ無理なんですよね。いろいろな人と力を合わせて、お互いがWin-Winになるように底上げしていく重要性を身に染みて感じているので、自分を応援してくれる人のために、まだまだやらなきゃなという気持ちがモチベーションになってますね。

笠井:第二のキーワードは「信念」です。

小出:都市ガスの自由化、電力の自由化に加えて、世界がカーボンニュートラルに向かっていて、価格上昇などいろいろな課題を先陣切って解決していきたいと思います。それをやることで地域が盛り上がりますし、味方もどんどん増えると思うので、そういった仕事を楽しみたいですね。

笠井:先陣を切るという意味で、何かお考えのことはありますか?

小出:この先、こういう時代が来るなというのが大体読めているので、逆算して取り組んでいこうと思っています。まずは私が率先してやっていくことで、いろいろな人がまねをしてくれたらいいですね。

笠井:越後天然ガスには企業理念はありますか?

小出:安全・安定・安価という理念がありまして、それを突き詰めていきたいですね。

笠井:突き詰めるとどうなるのですか?

小出:例えば太陽光発電ですと、晴れていれば発電しますが、曇っていると発電できない。風力発電も風が吹かないと発電できない。再生可能エネルギーってすごく不安定なんですよね。しかも値段も高くなる。安定供給でなければいけないし、安価でないと普及しないと思うので、ガスと電気などいろいろなエネルギーをベストミックスさせていけば、企業理念を実現できるのかなと。昨今、世界中が環境問題に取り組んでいますが、手探り状態です。挫折して方向転換している国もいっぱいあります。だから、新潟から手本ができたら、超おもしろいなと思いますね。

笠井:そういう意味では、会社だけでなく、地域もサステナブルにしていくという想いもあるんじゃないですか?

小出:あります。ただ、この地域だけが発展するということはあり得なくて、新潟県全体になります。新潟県だけが発展することもないので、では日本全体になります。日本だけが発展することもないので、結局世界全体になりますという感じで、世界のことを考えてないといけないと思います。

笠井:新潟の小さなガス会社という視点から、もう少しグローバルにお考えなのですね。

小出:結局全部つながっているので、考えざるを得ないというところですね。

笠井:うちはこの地域でやっていて安定しているから、という考えではダメなわけですね。

小出:視野が狭くなりますね。視野が狭い人はもっと広く見たほうがいいし、広すぎる人はもうちょっと狭くしたほうがいいし、やっぱりこれもバランスになってくるんですけども。

笠井:そこのバランスを見極めるのが難しいとは思うんですけれども。

小出:とにかくトライアンドエラーですね。

笠井:じゃあ失敗も結構してますか?

小出:失敗のほうが圧倒的に多いです。社員にはよく、自分で人体実験をやっていると言っています。

笠井:失敗は恐れない?

小出:人間は絶対に失敗する生き物ですし、人から聞いてもなかなか実行できない人もいるので、だったらば失敗するしかないですよね。失敗して反省して修正する。それが圧倒的にいいんじゃないかなと思ってます。

笠井:お話を聞いてると、順調にどんどん拡大していったように聞こえましたけれども、実は違うんですね?

小出:私はもう社員には失敗をさせるというか、大けがしなければいいかなぐらいですね。

笠井:社員の失敗を責めたりはしないわけですか?

小出:まったくしないです。だって私自身も失敗しますから。

笠井:それはちょっとおもしろいお話です。

小出:会社の方針に沿わないことをやって、けがしたとすると、怒ります。会社の方針に沿ってけがしたんだったらしょうがないよねって感じです。

笠井:社員の皆さんは失敗を恐れなくなりますね。

小出:もし会社の方針に沿って失敗して、お客さんが怒ったら、私に言ってくれと社員には呼びかけています。私が全部責任取るという感じで。平気で謝りますので。私、プライドゼロなので。

笠井:ボスとしては理想的ですよ。

小出:これが社長の仕事だと思ってますからね。

笠井:そして最後になりますけれども、第三のキーワードは「未来へのビジョン」です。

小出:社員に言っているのですが、これからどんなに競争が激しくなろうが、人口が減って景気が悪くなろうが、50年、100年たっても続く会社にすると宣言してるんですね。そうなると自分だけでなく、いろいろな人と力を合わせてやらなきゃいけないので、社員が力を合わせて楽しめるような会社、そして地域をつくっていけたら、どんなにおもしろいだろうと思っています。

笠井:具体的に何か将来に関して手がけていることや挑戦していることはありますか?

小出:そんなに新しくないかもしれませんが、実はYouTubeのプロデューサーをやっています。動画編集は全然できますし、大学の専攻がプログラミング、IT関係だったのもあって、自分でホームページも作れます。そういう展開を会社とは別に進めているので、それがうまく絡み合えばおもしろくなるかなと思います。