4月22日配信回
2024.04.22

4月22日(月)配信 小説家 真山仁

略歴

1987年、同志社大学法学部政治学科卒業後、中部読売新聞(のち読売新聞中部支社)に入社。同社退社後フリーライターを経て、2004年「ハゲタカ」で小説家デビュー。

笠井:「ハゲタカ」を抱えてデビューというのは、ずっと温めていたんですか?

真山:実は経済大嫌いなんですよ。

笠井:経済小説は結構肝じゃないですか。

真山:経済小説を書くならデビューさせてやると言われたんです。15歳の頃から25年ほど作品を投稿してきて、さまざまな賞に応募しては落選することもある中、その話がきたので挑戦してみたという経緯です。

笠井:「ハゲタカ」はベストセラーシリーズになりましたよね。「グリード」ではリーマン・ショック、「シンドローム」では電力会社買収劇を描き、東日本大震災の原発事故を予言したとされる「ベイジン」も執筆されている。経済的な作品を得意とされているような流れになってますよね。

真山:経済小説のように見えますが、情報戦をただ経済の中でやっているんです。

笠井:サスペンスフルですよね。

真山:そうですね。バブルや震災など、結果的にその時代の歴史小説みたいになっているんですよね。1990年代以降はお金で社会や世界が回っていたので、自分としては社会的な現象を経済の切り口からという意図でした。

笠井:実はですね、なぜゲストにお呼びしたかと言いますと、先月文藝春秋社から「疑う力」という文春新書が発売されました。読んだところ面白かったです。

真山:ありがとうございます。

笠井:こちらの本はどうして出そうと思われたんですか?

真山:東日本大震災以降、SNSが社会の重要な位置を占めるようになって、多くの人が発信するようになりました。一方で情報の渦に飲まれて、自分は正しい側にいたいのに何が正しいかが分からない。そうすると人は不安になるものです。正しさは個人の価値観なので、この多様性の時代に気にしすぎる必要もないのですが、不安に感じている人は多い。ならば私のように物事をうがって見て、本質が分かればぶれることもなくなると思ったんです。一旦立ち止まって、正しさを整理し、前提として色々なことを疑ってみたらどうですかというのをよく講演会で喋っていたんです。それが多くの方に響くので、しっかり文字にしてみようと思いました。

笠井:私が考えただけでもビジネスヒントが10個以上、この本にありました。

真山:ありがとうございます。

笠井:それでは後半は3つのキーワードで番組を進めていきます。一つ目のキーワードはモチベーション。真山さんの仕事のモチベーションは何でしょうか?

真山:小説で世の中を変える。私は子どもの頃から天邪鬼で、しかも文句を言って終わるのではなく、他の人を説得するタイプでした。学級会でみんなが反対することに、15分もあれば自分の意見に引き込むのが何となく得意だったんです。加えて、子どもの時から読書はしていて、小説なら一人で物語が作れますよね。ここで自分の問題意識を皆に訴えれば、世の中変えられるんじゃないかと思ったんです。

笠井:個性の強い子どもという言い方をすればいいのでしょうか。

真山:弁が立つと言われるんですけど、相手の話を聞いた上で穴を探すのが得意なんです。学級会だと10分はずっと黙っていて、手を挙げた瞬間に、「始まったよ」って言われていました。

笠井:私、コミュニケーションの真髄って聞くことだと思うんですよ。

真山:おっしゃる通りですね。

笠井:安心しました。意見が合ってよかったです。続いて第二のキーワードは信念です。真山さんの仕事の信念とは何でしょうか?

真山:「正しいを疑う」ことです。常識を疑うという言い方でもいいんですが、この国は正しさや常識というものが早く決まってしまいます。しかも声の大きい人が決めるのです。皆疑っているにもかかわらず、この国は同調圧力の強い社会なので流されてしまう。選択肢はこれからの社会で大事になってくるはずですが、疑わないと選択肢がなくなってしまうのです。小説を書くのもそうですが、だからこそ「こういう選択肢があったのに何故皆そっちに行ったのか」と問う。

笠井:大きな世の流れに逆らうことは流行らないような、そういう時代でもありますよね。

真山:「それは違う」という言い方はだめなんです。「ちょっと一旦立ち止まってみないか」ということですね。

笠井:「正しいを疑う」となると、陰謀論に思考が寄っていくのではないかと思ったのですが、それに関してはどう思われます?

真山:確かにずっと疑うと猜疑心の塊になるので陰謀になってしまいますが、大事なのは簡単な違和感です。例えばメディアの世界にいると、この情報はどこから出てきたのかと疑問に感じることがあると思うんです。こういう違和感こそが疑う力です。陰謀論というのは何も分からないけど、自分がうまくいかないことを誰かのせいにすり替える時に出てくると思うんです。全く根拠のない問題は違和感じゃなくて、すがっているんです。だから普段から疑う力を鍛えることが大事。スマホが手元にあるのに調べずに「まあいいか」と思うこともありますよね。それで後になって「調べればよかった」と後悔するんですよ。

笠井:なるほど、疑う力。

真山:大事なんです。

笠井:そして三つ目のキーワードは未来へのビジョン。真山さんの今後のビジョンや挑戦など、色々とあると思いますがいかがでしょう。

真山:若い人たちに希望を託す。今の世の中に対してひんしゅくを買っても、今までしてきた未来のないことについては責任を取らないといけないし、自分の使命だと思っているんです。例えば財政赤字を作っておいて、「頑張ってね」「大丈夫、日本は破綻しないから」と託すのは違う。

笠井:今日は本当にためになるお話をありがとうございました。

真山:ありがとうございました。