7月22日配信回
2025.07.22

7月22日(火)配信 株式会社CyberomiX 代表取締役 渡辺亮

略歴

東京大学大学院工学系研究科で工学博士を取得後、東京大学先端科学技術研究センターにて博士研究員として、癌ゲノミクスの研究に携わった。2009年に京都大学に移籍し、iPS細胞研究所にて特定拠点助教・主任研究員として、細胞の性質をDNAレベルで解析する研究を行った。京都大学大学院医学研究科特定准教授を経て、2023年に株式会社CyberomiXを創業し、代表取締役として、現在に至る。100を越える論文や多数の著書を世に送ってきた。

笠井:今日はTシャツでいらっしゃっていますが、これは会社のTシャツですか?

渡辺:そうです。

笠井:会社名のCyberomiXと書かれた非常にかっこいいTシャツですね。BEYOND ACADEMIAと入ってますけども、これは何でしょうか?

渡辺:「大学よりも高い技術を持って社会を変えていこう」という想いを込めたTシャツになっています。

笠井:早速キーワードが出てまいりました。「大学よりも」ということですが、株式会社CyberomiXは何をされている会社ですか?

渡辺:一言で言うと、体を構成する一つ一つの細胞に含まれているDNAの異常を見つける技術を開発しています。

笠井:私はがんサバイバーなのですが、がんも関係していますよね。

渡辺:そうですね。一番のターゲットはがんになります。

笠井:最先端の研究をされているということですけれども、なぜDNAの異常を見つける技術に注目したのでしょうか?

渡辺:もともと私はDNAを調べるという研究をiPS細胞研究所でしていました。そこで、いろいろ経験させていただき、今度は「病気を治すというところに貢献しよう」と思った次第です。

笠井:それは、細胞から病気を治していくということですか?

渡辺:そうですね。現在の治療は、臓器などをターゲットにしていますが、私たちの特徴は、一個一個の細胞をターゲットにしていることです。

笠井:そうすると、胃がんや肺がんのがんの中にも、一個一個の細胞で違う病気の可能性があるということでしょうか?

渡辺:そうですね。例えば、がんは一見、同じ原因で発生するように思われていましたが、実際は同じ患者さんのがんでも、変異の種類が違う細胞が存在していることがわかってきています。

笠井:そこを狙って治療していけば、より効果的な治療法が開発できるということでしょうか?

渡辺:はい。治療してダメだったから次の治療ということではなくて、最初に全ての細胞をターゲットにして治療するというところを狙っています。

笠井:すごい研究ですね。渡辺さんの経歴をご紹介しますと、東京大学大学院工学科研究科で工学博士を取得され、東京大学先端科学技術研究センターで、癌ゲノミクスの研究に携わり、京都大学に移籍。iPS細胞研究所にて、特定拠点助教主任研究員として、細胞の性質をDNAレベルで解析する研究を行っていらっしゃいました。京都大学大学院医学研究科特定准教授を経て、2023年に株式会社サイバーオミックスを創業されています。iPS細胞研究所は、ノーベル賞を受賞された山中伸弥先生のところですよね。

渡辺:そうですね。2009年に京都に移りiPS細胞研究所に所属したのですが、2012年にノーベル賞を受賞された瞬間に立ち会いました。

笠井:あのとき、まさに研究員として一緒に働いていらっしゃったのですね。

渡辺:研究者としての山中先生に注目される方が多いのですが、私は若手のマネジメントなども学ばせてもらいました。iPS細胞研究所での経験は今の基盤になっています。

笠井:東大、京大、iPS研究所、日本の最高学府というところで研究されていて、そこから自分で会社を立ち上げようと思ったのはなぜでしょうか?

渡辺:大学が一番良いと思われている方が多いと思いますが、僕はそういったこだわりは全くないですね。言い換えると、大学よりも大学の外に行った方が研究しやすいこともあると感じ、起業にいたった次第です。

笠井:特に基礎研究に関しては、大学のシステムの中にいて研究した方が国からの支援もあり、じっくり取り組めるという気がするのですが、外に出るメリットはどこにあるのでしょうか?

渡辺:大学には国からの支援もありますが、一方で、予算の制限があるという見方もあります。ただ、営利団体の場合は、必要になれば借入をしたり、資金調達をしたりして目標に向かえるという良さがあると感じています。

笠井:そういう理由であれば、大企業の研究所に所属する道もあると感じたのですが、大企業を選ばなかったのは何か理由があるのでしょうか?

渡辺:大企業になると、今度は会社の目指す方向が決まってしまっているので、自分がやりたいことができない可能性があります。

笠井:確かにそうですね。自由な発想で自由に研究を進めるために起業されたということですが、そこには相当なリスクと決断が必要だと思います。実際に起業してみていかがでしたか?

渡辺:私は大学にいたときのメンバーと一緒に会社をつくったのですが、一緒にやってくれる仲間がいたというところが、やはり一番大きかったと思います。

笠井:起業のきっかけとなったエピソードはありますか?

渡辺:とにかく昔から「社会を変える」という目標がはっきり決まっていました。「自分ができることは何か」と考えたとき、自分には幸いにもDNAを見る技術、一つ一つの細胞を見る技術というのがあったため、そこから「社会を変えていくということをやろう」と思い起業しました。

笠井:基礎研究、医療のことを研究されていて、今の医療に関してどんな課題があると感じていますか。

渡辺:そうですね。笠井さんもご存知の通り、がんであれば一つの薬を使用して効果が感じられなかった場合、次へ次へと何ステップも治療をするということがあります。例えばがん細胞には4つの性質のものがある場合、1つずつではなく、最初から4つを同時に叩くということができたらいいなと思い研究を進めています。

笠井:そうなのですね。自分の儲けのためにではなく、世の中のため、人のためという意識を強く持たないとできないお仕事だと思うのですが、原動力はどこにあるのでしょうか?

渡辺:新潟から東京に出てきたときに、僕の周りは帰国子女など、いろいろな経験をしている方が多くいました。自分には何もないと思いましたが「信念を持って生きる」というところは、唯一持っているものかなと思い、20歳ぐらいのときから一貫して行っています。

笠井:このお仕事をしていてうれしい瞬間はどんなときですか?

渡辺:我々の会社は、技術を持ち仕事ができる人を雇うというより「弊社で働くことでこの人の人生が良い方向に変わってほしい」という人を採用しています。最初は皆さん緊張していますが、職場に慣れて楽しそうに笑っているのをみると、すごくうれしいです。我々は「この人の人生に貢献することができたのだ」と思いますね。

笠井:おもしろいですね。やはりこの番組に来る社長さんの中にも一定数、儲ける・発展するということよりも、「社員の人生を豊かにしたい」と言う方もいますが、渡辺さんも同じ考えでしょうか。

渡辺:そうですね。よくわかります。

笠井:今後新しく進めていきたい研究について教えてください。

渡辺:先ほど申し上げた通り、一個一個の細胞をすべて制御する、がん細胞をすべて叩くというところを目指していきたいと思います。

笠井:本当に大変ながらも希望に満ちたお仕事だと感じました。私もがんの再発の可能性はまだ残っていますが、がんが再発した場合も新しい医療によって治療していただけるかもしれないとわかり、希望が持てました。時間のかかるお仕事だと思いますが、今後も成果を上げられるように頑張ってくださいね。ありがとうございました。

渡辺:ありがとうございました。